The Cuckoo's Nest

幽遊自躑に暮らしております。https://twitter.com/Wintermoth1934

透明なリボルバー

全てが変わってしまった。

当たり前だったものが当たり前ではなくなる。

一瞬にして瓦解し過去のものになる。

悪夢なら醒めよ。悪夢なら醒めよ。

この目を背けたいあまりの現実に魅入られないよう光線の中草花や小さな虫たちを追いかける。嗚呼なんて生きることは美しいんだろう。紫陽花の未熟な蕾や無花果の森を散歩するコメツキムシを見ていればこの浮世を天国と思えた。

そして陽が顔を隠し夕闇が辺りを支配する。草花は瞬く間に黒く色褪せ虫たちはその姿を透明にする。その頃から私の脳内で小さくタナトスの鐘が打たれ始める。いつものだ、私は闇にいる鹿と同じ甲高く濁った奇声を上げ無我夢中で泥まみれになって駆け出しそうになる。暗闇は私に現実を与える。どこにも逃げられない。光を灯して暗闇を追い払うことができるのは健康な人たちだけ。羽虫の死骸を通して私へ届く人工の光の中で、暗闇は私に言う。

貴様がしてきたことを振り返れ。善人であれば天と地が逆転しても到底出来ぬことを貴様は平然とやってのけたのだ。貴様の後悔や反省は傷つけた人々のためではなく己の僅かな安心のためなのだ。己にはまだ良心があると思うためなのだ。しかしそんなことをしても不毛という奴だ。貴様が決して癒えぬことを保証しよう。

「少しずつ元気が出てきたようで嬉しい」

元気? 私が?

そうか、私は元気なのか。

そして今日も私は透明なリボルバーを握る。私の懺悔といえば、このリボルバーで脳髄をベッドの上に撒き散らすことしかないのだ。