一炷香

幽遊自躑に暮らしております。https://twitter.com/Wintermoth1934

海の翡翠と千葉県富津市『さヾ波館』

千葉県は富津市『さヾ波館』へ友人らと宿泊した。この地に来た理由はいくつか挙げられるが一つに冬の海を見たいというのがあった。

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夕食に出てきたカワハギの煮付けが美味しかった。カワハギなんぞ食べたのはいつ振りだろう。子供の時分に親父が釣ってきたウマヅラは何度か食った記憶はあるが、思えば本物のカワハギを食った記憶があまりない。真冬のカワハギは肝がぱんぱんに太って一番美味いとは耳にしていたが、やはり甘く濃厚で本当に美味であった。以前食べた河豚の肝より私はずっと美味いと思った。

宿の中をぐるりと回るとおもしろいものがたくさん置かれていた。宿の主人に聞くと先先代の主人が郷土史家だったらしく年季の入った民具や戦前戦後にかけての古書が置かれていて一部手に取ることもできた。

おもしろかったのは、釣の談話室と名付けられたこちらの一室、ここで宿泊客同士が酒を片手に釣り談話に花を咲かせるのだろうか。残念ながら宿泊客はいたがここで人と出会うことはなかった。

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夜、友人と海を見に行こうと外へふらりと出たがあまりの強い風と寒さに進むことができず引き返した。泣く泣く引き返しながらちらりと目の端に映った夜空が美しかったのを覚えている。

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部屋に備え付けられた水道の一角が良い。

 

翌日、私たちは釣りに出掛けた。

天気は快晴、宿のすぐ近くの釣具屋で青イソメを一パック買った。店の前に海とを繋ぐ川が流れていて、一羽の翡翠カワセミ)がキラキラとその青い羽を太陽に反射させながら舞っていて、その下を銀色の猫が慣れた様子で歩いていた。

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私たちはそれから宿の人に聞いた釣り場で釣りをした。私たち以外にあまりやる気のなさそうな4人連れの家族がいるだけであった。彼らも気付いたら消えていた。

冬の海を茫然と眺めていると、すぐ横を青くキラリと何かが光るのに気付いた。それはまたしても翡翠だった。海なのに翡翠かと思った。さっきと同じ翡翠だろうか? 翡翠は阿呆面で眺めてた私と違い凛々しい表情で海を眺めていた。すると翡翠は急に飛び上がり海へダイブしキビナゴのような小魚を易々と捕らえると防波堤の淵に叩き付けて飲み込んだ。魚も全く釣れなかったので私はこの一羽の海にいる翡翠に夢中になった。海を眺める孤独な翡翠の姿を見てると私にはどうにも餌を探すだけが目的で海を眺めてるようには思えなかった。

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腹が減ったので釣りを切り上げ車へ戻ると銀色の猫が太々しく車の下に座っていた。ボンレスハムのようにぱんぱんに太っといて野良猫のくせに私たちを見ても怯える様子はまるでなかった。だからといって飯を求めるわけでもなく妙な猫だなと思った。すると連れがさっき川で翡翠と一緒に見た猫と同じかもと呟いた。結構離れたところだったが、同じ翡翠と同じ猫が連れ立って移動してきたと思うと何だかおかしかった。

 

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宿の一角。

私は宿の廊下にある手洗い場が好きで、特にこのように宿の人が花を生けてなどあるとうっとりしてしまう。

こういう一角が毎日近くにあったらそれはとても幸せなことだと思う。