年老いた女がぼくに向かって言う。
お前は決して幸福にはなれない、と。
ぼくは何故か訊く。
すると彼女はぼくに言う。
お前は変態だからだ、と。
ぼくは思う。ああ、そうか。今まで幾度と自身を自身で罵倒してきたが、どうもしっくりきたものがなかった。そうか、正しい言葉はこれだったのか。ぼくは腑に落ちて、彼女に礼を言う。
彼女はぼくに言う。決して彼女は笑わないし動揺もしない。
私はお前のそういうところが最も憎く稚拙だと思っていた。
ぼくは彼女にさらに礼を言う。その言葉も全くぼくの腑に落ちたからだ!
彼女はぼくに言う。
哀れ過ぎるから自殺してくれ。
ぼくは言う。
それだけはできない。この世で確実にぼくを愛してくれている父と母が、また私の傷付けてしまった大切な人たちが自身の責任と思って生涯苦しむこととなる。それだけは決してできない。
彼女は言う。
本当にそうか?
ぼくは言う。
いやこれは全く本当だ。これだけは心の底から本当だと言える。ぼくはぼくのためではなく他者のために自殺はできない。
彼女がその時初めて表情を変えた。
だから私はお前を変態だと言っている。お前はそう言われて腑に落ちたのだろうが、それこそ勘違いであってお前が変態である所以だ。さっきからお前は私の言っていることが何一つ理解できていない。お前は生涯ずっとそうだった。理解した気になっていただけ。だから自殺しろ、ただそれに従うことのみお前は救われる。
気付くとぼくの手には拳銃が握られていた。ぼくは躊躇無く自身の口に銃口を突っ込んで引き金を引いた。
そして目が覚めてぼくは顔を洗うよりも先に首を吊った。ゴリンと首の砕ける音が身に染みたその刹那ぼくは思った。次はもう何にも産まれ変わりたくない、と。皮肉にもぼくはこれだけの悪行を起こした時に初めて解脱を求める気になったのである。また、そのことは同時にぼくが最期まで自分にしか真の関心を寄せないことを改めて証明して見せたであった。