The Cuckoo's Nest

幽遊自躑に暮らしております。https://twitter.com/Wintermoth1934

インド紀行①

インドから帰国し月日も経ち日本の生活にも慣れた。

私の人生に深くそれでいて実に鋭い爪痕を残したインドでの体験をここに残す。

これは当時インドから友人たちへ送った紀行文で、毎日向こうで寝る前に文字通り魂を削って記したものに些か手を加えたものである。

念のため断っておくが、私はインドがこの旅で大好きになったし、日本ももっと大好きになった。旅はやはり良いと、そう気付かせてくれた旅だった。

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アフターダーク、ホテルにて)

このインド旅行で唯一俺に向けられた真の純粋なものは、インディラ・ガンディー国際空港から出てすぐに会った小さな女の子2人だけだ。
ムスリムの家系なのかな。お母さんたちといたんだけど、東洋人の俺が珍しいのか近寄ってきてすごく良い笑顔で手を振ってくれた。そしたらさらに俺に握手まで求めてきてくれたんだ。
俺は今まで子供を特別好きと思ったことはなかったんだけど、この時本当に神はいるんだと感じたし救済されたんだよね。
その時、俺は久々の異国それもインドだからとても心細かったから嬉し過ぎて彼女たちにお礼をしようと思ったんだけど、すぐにリュックからボールペンを出そうとしたら底に埋まってたせいで結局渡せなかったんだ。渡せなかったことがすごく悲しかった。

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そして今日一緒に遊んだスリランカ人にお礼と思って日本から持って来たボールペンを5本プレゼントしたら、彼の目死んでたよ。口だけ笑うってこういうことなんだなぁと思った。彼は礼を言って雑にボールペンをポケットに突っ込むと、俺クリケット好きなんだけどナイキかアディダスの靴買ってくれん?と言った。俺は靴を買ってあげたよ。彼とても幸せそうだった。
そしていつの間にか高額で数日間雇うことになった英語オンリーのガイドに聞いたよ、こういうことが今日あったんだけどどう思う?って。
そしたら彼は言った。「それだけ色々尽くしてもらって一万の靴くれって言うだけならそのスリランカンは良いやつだよ。本当に悪人なら金をたっぷりお前に請求するぜ」
その時、俺は思ったんだ。
心が汚いのは俺だったのかな? このぐらい世界じゃ普通なのかな? 日本人の考え方って世界的に見れば特殊なのかな? このインドという国で仏教をはじめ様々な宗教が興ったこと、今も支持されてることは、こういうところにもあるのかな? 人間ってなんのために生きてるのかな?ってね。

今日でインドに着いて2日目。1日目はもっと最悪だった。

これだけは分かって欲しいんだけど、俺がバカで騙されたは紛れもない事実、でも事前に気を付けなきゃならないことは最低限頭に詰め込んできたつもりだった。人間ね、いざその事態を目の前にしたらその問題をクリアするのは中々難しいんだ。地震が起きた時に防災訓練通りに動くのは簡単じゃあない。

1日目は、ニューデリー駅から降りて一瞬でリキシャーに何倍もぼったくられて、ただホテルに真っ直ぐ行きたいのに何故かこの時間は全て閉まってると嘘をつかれて、そのまま何故か真夜中にアラブ人が経営する雑居ビルの一室に連れ込まれてそこで高額のツアーを組むように詰められたよ(これは阿呆な俺でも流石に逃げ出した)、リキシャーに連れてかれたホテルはサービスの質も部屋の質も悪いのに一泊2万、これはインドの感覚だと異常な価格だ。だけど身も心もボロボロだった俺はもうどうでもいいやって気分になって全て受け入れちゃったんだ。
みんな俺たち日本人の感覚からしたら悪事を働いてたけど誰1人悪びれてなかったよ。現に俺がナイキの靴を買ってあげたスリランカ人は明らかに落ち込み出した俺を見て「フユシャク、どうしたよ?楽しくない??」って心の底から心配してくれたもんな。

インドの人たち人生を幸福に生きることが最も重要ってみんな言ってた。だから金は過剰に請求するけど盗む奴はそこまで多くないのかもね。ものを盗むのは世界中誰が見ても悪だけど、金の過剰請求は人によっては悪じゃないかもね。
俺にナイキの靴や金を過剰に請求してくる人々がシヴァに平伏していたり、一日一杯目の飲み物を地面に少し溢して神に捧げ祈ってるんだ。これが人間ということなんだよ。
これを書いてる今ホテルの外で野良犬が悶えたような叫び声を上げてる。どうしたんだろうね。
うん、今日はもう疲れたな。
明日もまたお喋りしよう。
ダンニャワード!

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