誰もいない深夜の温泉街で点滅した街灯を見ていたら、ふと走馬灯という言葉が頭に浮かんだ。
そうだ……私の日々の生活は全て走馬灯……死ぬ瞬間の私が再度体験してる追体験だとしても証明のしようがない……
そう思うと鳥肌立ちゾッとして卒倒しそうになった。
私は人生でただ一度だけ真の恐怖と真の絶望を感じたことがある。あの時の恐ろしさと比べれば今までの苦しいことなど造作もない。
私の人生はこれで終わりだという確信を得た。
その時、私は良い歳にもなって母を稚児のように何度も呼んだらしい。
日頃あれだけぞんざいに扱っていた母を呼んだ……
私の中でどれだけ母の存在が実際に大きいか私はその時初めて実感を伴って理解した。
以降、私は母に優しくしたいと思っているが、それが中々に難しくできていない。
いかんいかんと思うが、どうにもできない。私も幼く、母も決して大人ではないからだ……